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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)7323号 判決

大阪市生野区大友町一丁目二二番地

原告 大和信用組合

右代表者代表取締役 田中藤吉

右訴訟代理人弁護士 遠田義昭

東大阪市岸田堂一八三番地

(送達場所)大阪市生野区巽西足代二一番地

被告 株式会社尾嶋金属工業所

右代表者代表取締役 尾嶋吉治

右当事者間の昭和四二年(ワ)第七三二三号所有権移転登記等請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

被告は巽金属工業株式会社が別紙目録(一)、(二)の各物件につき原告に対し別紙登記の表示記載の仮登記にもとづき昭和四二年八月二〇日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をすることを承諾し、別紙目録(二)記載の物件より退去せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに主文一項につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は巽金属工業株式会社に対し昭和四一年八月二九日、同日付取引約定書にもとづく債務につき同会社の所有していた別紙目録(一)、(二)記載の物件に極度額金四〇〇万円の根抵当権を設定するとともに、代物弁済の予約を締結し、同年九月一三日別紙登記の表示記載の仮登記を了したところ、同会社は同日貸付の金四〇〇万円の債務につき同年一〇月二六日期限の利益を失ったので、原告は昭和四二年八月一九日付書面を以て右金四〇〇万円およびこれに対する昭和四一年一〇月二七日以降昭和四二年八月一九日までの日歩七銭の割合による損害金八三万一、六〇〇円をもって右各物件に対する代物弁済予約を完結することとし、右書面は翌八月二〇日到達したから、右各物件は同日以降原告の所有に属することになった。

二、ところが同会社は原告に無断で右各物件を右仮登記後である昭和四一年一〇月一四日被告に売渡し、被告はその旨の所有権移転登記を受け、このうち目録(二)記載の物件を占有している。

三、被告の右登記は原告に対抗できないから、原告は前記仮登記に移行することについて同意を求めたが被告はこれに応じない。また被告の右占有は原告に対しては何らの権限のないものであるから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。」

と述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「原告の請求原因事実は全部認めるが、別紙目録(一)、(二)記載の本件物件の時価はあわせて約一、〇〇〇万円に達するから、僅か四〇〇万円の債務の代物弁済として原告がこれを取得し、被告に退去を求めることはできない。」

と述べた。

理由

原告の本訴請求原因事実は、被告の認めて争わないところである。

被告は別紙目録(一)、(二)記載の本件物件の時価と原告の債権額との間に合理的均衡がないから、原告が代物弁済としてこれを取得することができない旨抗争するが、たとえ右代物弁済予約当時・時価と債権額が被告主張のようにかけ離れていて、右代物弁済予約が処分清算的代物弁済予約とみるべきであると仮定しても、被告が右各物件につき有している所有権移転登記は、原告の仮登記に劣後するため、そもそも被告は原告に対しては自己の所有権取得を主張することができないものであり、原告は右処分清算のため一まづ右各物件の占有を原告に移し、また代物弁済による所有権移転登記手続を得ることができるものと解せられる。そうだとすれば被告の右主張はそれ自体失当というべく、原告の本訴請求は正当として認容せらるべきこととなる。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行の宣言はその必要がないと認めてこれを付さぬこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村旦)

〈以下省略〉

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